高次捕食者を対象とした簡便な海洋生態系モニタリング手法の開発

 動物の胃内容データや組織標本の安定同位体比は、餌生物、すなわち鰭脚類にとっての小型浮魚類の魚種交替が高次捕食者に及ぼす影響を映す指標となります。現在、日本近海ではマイワシの漁獲量が増加し、次の新たなレジームシフトが起こる可能性があり、それが高次生態系に与える影響をモニターすることが必要です。

 このプロジェクトでは、国際水産資源研究所と共同で、日本沿岸で漂着・混獲により収集されるキタオットセイCallorhinus ursinusを利用することを想定した、コストパフォーマンスに優れる効率的な生態系モニタリング手法の開発を試みています。伊豆・三津シーパラダイスにおいて、研究所より委託飼育しているキタオットセイのヒゲの伸長速度と安定同位体比を計測し、ヒゲに記録される個体の摂餌履歴を復元する方法を開発するための実験と分析を行っています。

「アマミノクロウサギの形態情報の記載」

アマミノクロウサギ (Pentalagus furnessi) は南西諸島の奄美大島と徳之島のみに生息する日本固有種です。本種は絶滅危惧種ⅡBに指定されており、また、学術的に価値の高い哺乳類であるとされています。

近年、環境省では南西諸島の絶滅危惧種を保護するための取り組みを行っており、2002年より、国立科学博物館へアマミノクロウサギの自然死個体などを送り、標本化してきました。この取り組みがなされるまでは標本数が少なく、詳細な研究をするのが困難でした。そこで、本研究では国立科学博物館の川田伸一郎研究員と共同で、アマミノクロウサギの形態情報を記載することを目的としております。

国立科学博物館所蔵のアマミノクロウサギのはく製と研究室所属学生

「神奈川県東丹沢地域に生息するニホンザル群の行動圏と環境選択に関する研究」

近年、全国的に野生鳥獣による農作物被害が増加しています。神奈川県では県内に生息するニホンザル(以下サル)による農作物被害の軽減及び生活被害・人身被害の根絶による人との共存を目指しています。本研究では、神奈川県県央地域県政総合センターが取り組む、厚木市と清川村及び、愛川町にまたがって生息するサルの群れ3群を対象としたニホンザル管理計画の一環として実施されている、各群れの行動圏と環境選択の研究に参加しています。

調査対象となるサルの群れは県の設定する加害レベルが異なっており、農作物被害を大きく起こす群れとそうでない群れに分かれています。全国的に見れば、大きな被害を起こすサルの群れは全頭駆除の対応がされている県もあります。しかし、神奈川県では全頭駆除は行わない方針です。被害抑制・軽減のために特定の群れの全頭駆除は必要だという意見もありますが、全頭駆除を行わない場合には、どのようにしてサルと共存を図っていくかを考察する必要もあります。