中型食肉目個体群を保全するための技術開発 (Survey and Conservation Techniques)

 里山などの丘陵地では、タヌキ、キツネ、アナグマなどのイヌ科、イタチ科の中型野生哺乳類は「身近な環境」に生息し、地域生態系の維持・保全のための環境教育や普及啓蒙のためのフラッグシップ・スピーシーズとしての役割が期待されます。しかし人間の間に生じる問題点として、開発による生息地や移動経路の消失、人獣共通感染症、農作物被害に伴う錯誤駆除、外来種による個体群の劣化が挙げられ、共存のためには、コアとなる生息地を保護し、これらの動物と人間の間に生じる軋轢の解決策が望まれます。このプロジェクトは、動物捕獲や撮影画像取得、フェンスの構造などの具体的な技術を開発し、人間生活との間で軋轢の生じている場へ提案することを目的としています。

プロジェクト1.遠隔地から動物をモニタリングする撮影装置の開発と、特定外来生物アライグマを捕獲するための新型罠「ラクーンターミネーター」への応用

 既存の箱罠、およびエッグトラップ(アライグマに特化したアメリカ製の罠)は、本州ではニホンザル、アナグマ、テンがかかることがわかっており、捕獲者が手間を疎んで在来種でも殺処分する場合が多いことがわかっています。さらに前足を挟むタイプのエッグトラップは、捕獲した動物がパニックになるため、ワナの管理者が怪我をしたり、暴れた動物が骨折、脱臼、自分で肢を食いちぎったりする可能性があるため、人間と動物双方に問題があります。また、都市域では飼い猫や地域ネコとのトラブルも懸念されます。
 そのため、新たに開発中の動物記録装置(東京海洋大 古谷先生と共同)では、取得した画像データを遠隔地から取得することが可能となるため、哺乳類の生態調査スケールで必要とされる大面積の地域に複数機材をセットすれば、複数種、地点の同時並行調査が可能となる。さらに、捕獲にもこのシステムを応用し、「アライグマを選択的に捕獲する、他種にとっても安全な罠」を開発し、動物が入った後に在来種と外来種を識別し、目的以外の種はリリースする装置「ラクーンターミネーター」(仮称)を製作、その効果について実証試験を行っています。

プロジェクト2.高速道路へ侵入するタヌキ

 日本の高速道路における動物(哺乳類,鳥類,両生類,は虫類)のロードキルのうち,最も多いのはタヌキであり,約4割を占めています.また,ロードキル数は経年的に増加しており,2010年度の全国の高速道路におけるロードキル数を高速道路各社の報告書を基にまとめると,約43,400件にのぼります。一方で,ロードキルによるタヌキ個体群への影響として,一般道路も含めると推定年間11万頭から37万頭が死亡という報告があります。また,タヌキは夫婦で子育てをすることから,子育て期にロードキルによって片方の親が死ぬことは,子供の成育にも影響を与える可能性があることが指摘されています。タヌキのフェンスに対する行動については,地面を掘削してフェンス下部を通過することや,無対策のフェンスは乗り越えられることが示されていますが、当研究室では、タヌキがどのように掘削行動や登攀行動をしているのかについて,行動に焦点を当てて詳細に検討を行い、タヌキが通過できないフェンスの設計を提案することを目的としています。

プロジェクト3.食肉目の調査技術の文章化と技術交流

 夜行性で直接観察の困難な中型食肉目の生態調査は、個体追跡などの方法で行われることが多いのですが、若手研究者が直面する問題点として、調査技術が口頭で伝承されてきたため、データ取得や動物福祉上の問題が生じていました。そこで、日本哺乳類学会に所属する有志の研究者らの協力を得て、学会和文誌「哺乳類科学」の連載「食肉目調査技術事例集」を、研究室卒業生の福江佑子さんと共同で企画、実施しています。

Publications

Fukue, Y., Kaneko, Y., Hashimoto, Y., Fujii, T., Kanazawa, B., Saeki, M. 2001. Animal welfare in wildlife research - A proposal for guideline towards animal and ecosystem. Japanese Journal of Zoo and Wildlife Medicine 7 (1): 23-29. (in Japanese)

Kaneko, Y., Kishimoto, M. 2004. Trapping techniques of carnivore research in Japan. Honyurui Kagaku (Mammalian Science) 44: 173-188. (in Japanese)

Kishimoto, M., Kaneko, Y. 2005. Immobilization technique incarnivore research in Japan. Honyurui Kagaku (Mammalian Science) 45: 237-250. (in Japanese)

Nakashima, R., Miwata, S., Hamano,S., Fukue, Y., Kaneko, Y. 2008. Recent animal welfare relate topics in carnivore research-Facts and condition of euthanasia in wildlife research and its effect to researchers. Honyurui Kagaku (Mammalian Science) 48: 281-291. (in Japanese)

Ikeda, E. and Kaneko, Y. 2009. Trap structure of black bear and wild boar in Chugoku area in Japan. Journal of Yamazaki College 1: 115-119. (in Japanese)

  • さまざまな対策を施してある実験用フェンスでも通過してしまったタヌキ。さまざまな対策を施してある実験用フェンスでも通過してしまったタヌキ。 どのようにしてのぼったのだろうか?