6月初旬に、イタリアの雑誌”Ecology, Ethology, and Evolution”に、修士課程卒業生の久野君の論文が印刷されました。この論文は、久野君が修士2年のときに3ヶ月間ブルガリアへ滞在し、イシテンのフンサンプルを収集し、夏の果実利用の特徴についてまとめたものです。久野君はすでに2本の英語の論文を今までに発表していますが、論文の投稿に慣れてきたため、この論文では、責任著者 (corresponding author)も自分で行いました。
Hisano, M., Raichev, E.G., Peeva, S., Tsunoda, H.,Newman, C., Masuda、R., Georgiev, D.M., and Kaneko, Y. 2015. Comparing the summer diet of stone martens (Martes foina) in urban and natural habitats in Central Bulgaria.
ファーストオーサーは、通常データを取得した人が自分で行い、中心になって論文を執筆しますが、学術論文の投稿と掲載には、論文を書く他に、学会誌編集委員会との連絡、論文の共著者との連絡、論文の査読者らへの返事のレターの作成、また掲載が近くなってくると、原稿の校正や別刷り注文など、コミュニケーション上のさまざまなスキルが必要になります。ですので、通常は、指導教員や、そのグループの中で投稿に慣れた人が、責任著者となって論文の世話をしていきます。そして、ファーストオーサーがこれらの作業をマスターし、遅延することなくスムーズに行えるようになったら、責任著者もファーストオーサーが担当します。久野君は、この教育ステップを卒業したといえます。
先生が論文投稿していても、このような論文の投稿に関する技術を、英語で行えるレベルとして持っている研究室は、英語圏の大学でもそれほど多くないように思います。私が大学の学生だった頃の研究室では、先生が多くをやりすぎる傾向があり、私の最初の英語論文は、印刷されたら調査地の名前がまちがっていたし、別刷りの注文も知らない間に終わっていてできませんでした。その後、ポスドクで国立の研究所へ勤務するようになり、まわりの年長の研究員のみなさんが論文投稿の話を日常的にしていて、私も自分のデータを自分で全責任を持って投稿するようになり、だんだんとスキルを覚えていきましたが、学生時代にちゃんとやらなかったので、哺乳類学会をはじめとする編集委員会の委員のみなさんには、大変な手間をおかけしたと思います。
その後、オックスフォード大Wildlife Conservation Research Unitへ留学し、国際誌への論文投稿を盛んに行っている研究室の論文作成を、自分でも体験しました。自分の論文作成や投稿に関する考え方は、ここで大きく伸ばしてもらえることができたと思っています。
日本で投稿論文を出していくには、英語論文の場合はまず言語の大きい壁が立ちはだかります。しかし、これを乗り越えてしまえば、あとはロジック(論理構成)が重要なことは、日本語でも英語でも同じです。要は、そのコツコツ作業の積み重ねを、自分が楽しめるかどうかではないかと、最近思っています。一方で、学会の口頭発表は華やかな打ち上げ花火で、準備期間も短くてすみ、発表すると会場ですぐに反応がわかります。でも発表後は、その学術的知見はほとんど後に形が残りません。学術論文の楽しさは、遠く海外の研究者からPDFのリクエストがきたり、また自分の論文が他の論文や本に、うまく引用されて役に立っていることを実感できたときの、うれしさです。
オックスフォードの研究室では、誰かの論文が掲載されると、よく、みなでパブに出かけて乾杯しました。その人の、お気に入りのパブに集まります。そんなとき、「次は自分の論文のことで、パブにこれるといいなあ、」と思ったものです。今でも、自分の論文が掲載されたことを知らせると、オックスフォードの仲間からは、お祝いのメッセージが届きます。