2013年3月発行のMammal Study (日本哺乳類学会英文誌)に、ブルガリアプロジェクトの最初の生態学成果として、キンイロジャッカル (Canis aureus) の食性の論文が掲載されました(責任著者:角田裕志氏)。この研究は、トラキア大のライチェフ博士が、1997~2009年の冬季に収集された196個体分の胃内容物について、人為物の利用に着目してまとめたものです。食肉目動物の中でも、イヌ科動物は人為物への依存が強い傾向がありますが、本研究においても、哺乳類関連の人為物(イノシシなど狩猟の残渣、イヌやブタなどの家畜)の利用が多くみられ、その傾向は人間活動の高い地域ほど強まる結果となっていました。ヨーロッパの中で、南方由来の動物であるジャッカルが豊富に生息するブルガリアは、近隣のジャッカルが少ない地域へのソースとなっており保護の必要がありますが、一方で人獣共通感染症をもたらす寄生虫エキノコックスの中間宿主であるため、ブルガリアでは個体群管理の必要もあるなど、保全上の難しい問題があります。人間とジャッカルの共存のためには、現在の焼却等の処理なしに埋め立てで行われているゴミ処理方法を改善するなど、人為由来の餌の供給源を少なくする環境を整える必要があります。今後、本プロジェクトでは、ジャッカルの行動範囲や環境利用などの、生息地や繁殖生態に関する情報も取得していく計画です。
論文
Raichev, E., Tsunoda, H., Newman, C., Masuda, R., Georgiev, D. M., Kaneko, Y. 2013. The reliance of the golden jackal (Canis aureus) on anthropogenic foods in winter in central Bulgaria. Mammal Study 38: 19-27.
昨年のカメラトラップ調査において撮影されたキンイロジャッカル
調査地内にあるごみ集積場。雑食性の強いイヌ科動物にとっては、人為物由来の食べ物を利用するための餌場となってしまう。その結果、個体数が増加しすぎている可能性がある。