生物多様性ホットスポットであるブルガリアの食肉目群集の生態および保全
(Carnivore Diversity Area Project in Central Bulgaria)
北米や西欧では、古くから狩猟などの資源管理を目的とした野生動物の学術研究が行われ、近代の自然保護文化の発展以降も多くの優れた研究成果が生み出されてきました。その背景として、国家レベルで野生動物やその保全の学術研究を支援・促進するための体制や制度の充実があげられます。一方で、一部の霊長類研究を除いて、日本におけるこれまでの野生哺乳類研究は「人間生活に支障があるかどうか」という益害論に焦点の多くがあてられ、科学研究費が投入されてきました。研究者らは、基礎的な生態メカニズムの解明と学術的知見の蓄積の重要性を認識しつつも、実際にそれらを対象とした研究助成申請を行った場合採用されることは稀であったため、その結果として研究課題の偏りが生じています。
アジア-ヨーロッパ境界地域としての固有の生態系を有するブルガリア中南部トラキア地方)において、人間活動を理由とした絶滅による種の欠損がない食肉目群集であり、キンイロジャッカルやヨーロッパヤマネコなどのヨーロッパの絶滅危惧種が同国には豊富に生息します。しかし、近年ではロードキル、家畜被害を理由とした駆除、生活ゴミに餌付く個体の出現など、人間と野生動物との間の軋轢問題が顕在化しています。また、同国は2007年にEU加盟を果たし、今後は西洋型資本主義経済化による土地利用、産業構造、生活スタイルなど人間社会の大きな変化が予想されます。本プロジェクトでは、生態研究と社会状況調査の両立によって、将来的な社会変化の中で実効的で実現可能な生息地管理策を提案します。すなわち、研究対象とする食肉目動物の基礎生態の解明を通じて当地域の食肉目群集の固有性を学術的に評価し、得られた知見を応用して変化しつつあるトラキア地域における野生生物の保全に寄与することを目的としています。
1)生物的要因:餌資源やマイクロハビタット等についてフラグシップ種と同じニッチ (生態学的地位) 要求を持つ中小型食肉目との種間関係、ならびにフラグシップ種の生存に影響を与えると考えられる高次捕食者との種間関係
2)生息環境要因:餌生物種の動態や資源量、気温、植生条件等の外的な生息環境条件
3)人為的要因:生息地域内の土地利用形態 (農地、集落、牧地) 、道路密度と交通量、家畜の飼養・管理状況、野生動物の商取引・流通、人間や生活文化との関わり
Publications
Tsubouchi, A., Fukui, D., Ueda, M., Okuyama, E., Toyoshima, S., Takami, K., Tsujimoto, T., Uraguchi, U., Raichev, E., Kaneko, Y., Tsunoda, H. and Masuda, R. 2012. Comparative molecular phylogeny and evolution between sex chromosome DNA sequences in the family Canidae (Carnivora, Mammalia) Zoological Science 29: 151-161.
Nagai, T., Raichev, E.G., Tsunoda, H., Kaneko, Y., and Masuda, R., Preliminary study on microsatellite and mitochondrial DNA variation of the stone marten Martes foina in Bulgaria. Mammal Study (in press 2013)
Raichev, E., Tsunoda, H., Newman, C., Masuda, R., Georgiev, D. M. and Kaneko, Y. The reliance of the golden jackal (Canis aureus) on anthropogenic foods in winter, in central Bulgaria. Mammal Study (in press 2013)