2017年05月30日
4つの学術論文が印刷されました

4月は、Natureのアナグマの記事以外に、4つの論文が印刷されました。

Food niche segregation between sympatric golden jackals and red foxes in central Bulgaria. Tsunoda, H., Raichev, E.G., Newman, C., Masuda, R., Georgiev, D.M., Kaneko, Y. Journal of Zoology. 2017.

ブルガリア トラキア大学との姉妹校提携は、福島先生から5年前に引き継いで、今年で10年目を迎えます。ライチェフ先生が長年取り組んできた、キツネとジャッカルの食性ニッチについて、ファーストオーサーの角田さんが統計解析を駆使してまとめあげ、レベルの高い国際誌に掲載されました。

 

A comparison of visual and genetic techniques for identifying Japanese marten scats – enabling diet examination in relation to seasonal food availability in a sub-alpine area of Japan. Hisano, M., Hoshino, L., Kamada, S., Masuda, R., Newman, C., Kaneko, Y. Zoological Science 34: 137-146. 2017.

以前のブログでも書きましたが、農工大と北大の修士学生3名が主体となって行った共同研究です。本州のニホンテンについて、フンサンプルの種判定における、サンプルの外見(野外フィールドワークの情報)とDNAによる判定結果(ラボの情報)を比較し、今後のフンサンプルの活用の可能性について考察し、さらに、研究の少ない亜高山帯における食性の特徴を明らかにしたものです。

 

東京都心部の赤坂御用地におけるタヌキのタメフン場における個体間関係.小泉瑠々子、酒向貴子、手塚牧人、小堀睦、斎藤昌幸、金子弥生.フィールドサイエンス 15: 7-13. 2017.

都心に生息するタヌキの生態についての成果です。約50ヘクタールの孤立緑地の面積は、里山のタヌキの行動圏サイズとほぼ同じ大きさですが、ほとんど外に出ずに緑地内のみで生息するタヌキ6頭が、行動圏が強度に重複する生活の中でタメフンを用いて情報交換を行っていることを調べた研究です。このプロジェクト期間の最初の年に出た成果で、小さな行動圏サイズ、一夫一婦制の社会構造ではない可能性など、その後の研究内容にさまざまな示唆を与えてくれました。

 

カメラトラップを用いた赤坂御用地におけるホンドタヌキの個体数推定.岩崎佳生理、斎藤昌幸、酒向貴子、小泉瑠々子、手塚牧人、金子弥生.フィールドサイエンス 15: 49-55. 2017.

岩崎さんの卒業研究を、ポスドク時代の斎藤さんが再計算して投稿した、タヌキの個体数推定に関する論文です。日本の中型食肉目の個体数推定の研究は非常に少ないのですが、このプロジェクトでは、行動圏調査のために首輪型発信機を装着していたため、首輪にさまざまな色の識別をしてカメラトラップで撮影することにより、標識再捕獲法による本格的な個体数推定を行っています。約30頭と推定された結果は、あとにフンDNA分析によっても同様の結果であることがわかり、信頼できる結果であることが判明しました。

論文投稿発表に至るまでの過程はいずれも例外なく苦しいのですが、印刷された成果物を手にすると、一気に疲れが吹き飛びます。これらの論文が、のちの基礎生態や保全の役に立つのだろうと思うと、これからの楽しみは、さらに倍増することでしょう。研究成果は、やはり学術論文という形になって発表されてこそ、本当の価値が出てくるのだなあと思います。