2014年10月13日、神奈川県厚木市にある県立自然環境保全センターにて、アナグマの生態と保全についての講演を行いました。普段、講演を依頼されても、なかなかアナグマの日本における知名度が低いためか、アナグマ一種のみについて話してくれという内容はほとんどないのですが、今回はアナグマについてのみでどうぞ、ということで、私はかなり張り切って準備をすすめました。
当日は台風が近づく中、100名近くの方にお集まりいただきました。そして、アナグマのイタチ科の中での進化上の特徴の話にはじまり、東京都日の出町で行ってきた行動圏や環境選択、社会構造の特徴、そしてその調査をもとに設計したHSI (Habitat Suitability Index motel、生息適地推定モデル)の話、現在行っている中国や英国のアナグマプロジェクトの話、そして最後に東京都市近郊でアナグマが分布拡大をしてきているという話まで、2時間超えて熱弁(?)しました。今までの講演の中で、自分自身が一番楽しく話せた機会でした。
説明が不十分なところはあったかもしれませんが、きっと、講師が楽しく話している気持ちが会場の皆さんに伝わったのかもしれません、質問コーナーも、予定時間を超えてたくさんの方から、アナグマについてのご質問やコメントをいただきました。特に、現在行っている、アナグマの臭腺分泌物によるコミュニケーションについての質問をいただいたのはうれしかったです。最近、保全に興味はあっても、動物の基礎生態に関心を持つ若い人は少なくなっているように思います。しかし基礎研究があまり人気がないのは、若い人だけのせいでなく、基礎系の研究トピックに取り組むことに対し、大人たち(具体的にあげるならば、研究費を裁定する側や、職業として確立する側のことです!)の理解が低いことを示している、つまり、社会全体が抱える問題だと思います。
動物が繁殖できる場所がその動物にとっての生息地であり、その生息地を保全する、というところは理解できても、その動物がいつ繁殖しているのかもよくわからないで、どのような配偶システムなのかもわからないで、本当に保全をできるのでしょうか?最近流行の複雑な統計は、そういう情報を明らかにしてはくれません。研究する者が腰を据えて調査地で何年もかけて、一個体、一個体の繁殖に関するデータを積み重ねていかないと、わからないのです。
神奈川県の講演を聞きにいらっしゃっていた方戸の対話から私は、この点に関して、大学よりも市民の方が意識が高いのではないかという印象を持ちました。これは長年、センターの教育や普及啓蒙プログラムが継続され、研究者や専門家からのさまざまなアプローチによる説明がなされてきたからなのではないかと推測しています。