2014年07月29日
ペストコントロール協会 フォーラム東京で講演を行いました

2014年7月18日に、日本ペストコントロール協会にて講演を行いました(於 武蔵野公会堂)。

講演タイトルは「都内の野生動物について」です。講演要旨とスライド(抜粋)です。

1.ニホンアナグマ (Meles anakuma) は、なぜ吉祥寺駅に出てきたのか?

2014年6月16~19日、アナグマが吉祥寺駅北口に出てきて立ち往生との情報があった。里山の東京都日の出町で行ってきた環境選択や社会構造の特徴から、アナグマは、1) オスがメスを求めて大きな範囲を移動する社会的行動の特徴を有すること、2) アナグマのオスは、資源(巣穴、餌)を新たな土地で見つける目的としても、広い範囲を移動すること、3) 土を掘ることに特化した体型のため、移動能力はあまり高くないこと、があげられる。したがって、近隣緑地の個体が吉祥寺駅付近にたどりついたが、移動経路をうまくみつけられずに立ち往生したものと考えられた。

2.東京で起こっている問題点:ハクビシン (Paguma larvata) はなぜ増えているのか?

ハクビシンは、未だに学会では外来種か否かという結論に達しておらず、保護管理上の位置づけは決まっていないが、化石記録や遺伝的特徴から日本では外来種であるという見方が正しいように思われる。しかし、東京には、1) 移入してからそれほど時間が経っていないので、行動様式や繁殖時期がかたまっていないこと、2) 在来種である中国の個体群の食性の特徴として、果実やネズミ類中心ではあるが、状況に応じて利用できるものにスイッチすることが知られ、千葉県でも同様のスイッチが見られること、2) 移動能力が高く、また休息場所に特定のこだわりが見られないことがあげられる。したがって、東京都心部には、中型食肉目の生息種数が少なくニッチが空いており、残飯やネズミ類などがある都市環境では、食性のスイッチによって適応可能となったものと思われる。

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3.アライグマ (Procyon lotor) の在来種への影響と捕獲用罠の開発

アライグマの在来種への影響として、1) 今までの日本の中型食肉目としては生息しなかった大型動物の移入であることから、競争において有利である、2) ニホンイタチ、テンと食性で競合、ハクビシンと食性やねぐらで競合する可能性、3) アナグマやキツネの単独の子育てを阻害する可能性、4) 資源があるのに中型動物が少ない地域から移入が始まる可能性があげられる。

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4.野生動物の管理-東京で食肉目動物を扱うにあたって考慮すべき点

在来種(タヌキ、アナグマ)

・捕獲獣を慌てて放さない:水や餌をあげれば、箱わなの中で1週間程度は生存可能

→体重測定(アナグマ>4kg、タヌキ>2.5kgあるかどうか)を行い、保護が必要かどうか見極める

・放獣場所について、専門家らと検討してから

外来種(ハクビシン、アライグマ)

・殺処分方法に十分に配慮する、作業者の安全性を再確認

→動物福祉に配慮、地域住民の目に触れる状況を作らない、短くする

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普段はなかなか会うことのできない、動物の住宅被害の現場で働く方と接する機会でした。東京では、今までになかった種類の問題点として、都心への中型哺乳類の進出、定住が生じ始めています。野生動物保護のための研究を行う身としては、人間生活との軋轢の解決策としての駆除や捕獲の実施方法や内容はとても気になります。在来種と外来種で対応は異なります。また今回は、日の出町のデータから、在来種であるアナグマとタヌキの栄養状態の判断の目安として、成獣の最低体重を示しました。わなの重さがわかっていれば、箱わなごと重さを量れば、動物の体重は引き算で計算することができます。最低体重を下回っている場合は衰弱している可能性があるため、放す前に保護施設へ手配し、一定期間看護するなどの手当てが必要となる可能性があります。