2013年3月18~21日にオックスフォード大動物学部で開催された、「Wild Musteloid Conference」に参加した。かつてポスドク武者修行時代に留学していたWildlife Conservation Research Unit (WildCRU、David W. Macdonald教授)が、IUCNカワウソ研究者グループや小型食肉目グループとともに共催し、6つの招待講演、67の口頭発表と36のポスター発表、会議終了後にはワイタム(Wytham)大学演習林への遠足もついている。
世界的にみて、カワウソやテンでは種専門の国際会議が定期的に開催され、またミンクやアナグマの研究をしている研究者は数多くいるが、イタチ科というくくりで国際会議が開催されるのは珍しく、アライグマやレッドパンダの研究者も集まり、普段なかなかこれだけのメンバーの話をまとまって聞く機会はないため、この会議の話を聞いたときに「絶対に参加しよう」と思っていた。
冒頭にプレナリーを行ったMacdonald教授 (WildCRU)は、イタチ科の進化からはじまり、ワイタムで30年続けて行われてきたヨーロッパアナグマ (Meles) の社会生態に関する最新の研究成果について紹介された。その後、生態、個体群動態、生息地選択、人間とのかかわり、進化、情報の少ない種、形態と生理、移入問題、研究手法など、さまざまなセッションについての口頭発表、合間の2回のティータイム(イギリスでは11時前後と3時前後に30分から60分ほどのティータイムをする習慣がある)にポスター発表が行われた。
David W. Macdonald教授のプレナリ―講演。ワイタムのアナグマの研究の話を、総括的に聞くことができるのは、貴重な機会であった。
私は、セッション「人間との関わり(Musteloids and People)」にて、科研費で助成を受けている中国のアナグマの経済的利用とその解決策についてのプロジェクトの研究成果の一つとして「Economic exploitation of badgers in Japan, southern China and South Korea(日本、中国南部、韓国におけるアナグマの経済的利用)」について口頭発表を行った。2005年から積み上げてきた、中国の野生動物市場や韓国のアナグマ養殖場の現状についての話である。日本では注目度は低いトピックであるが、なかなか集められない情報であるためか、ヨーロッパでは非常に関心が高く、発表が終わった後にすぐに研究持続のためのファンド獲得や、情報交換についての問い合わせメールが入るなど、反響はとてもよかった。
私はアナグマの経済的利用についての発表をした。アジアでは、イタチ科動物が食料や漢方薬として利用され、密猟が後を絶たず、数が減った地域では家畜として養殖まで行われている。IUCN(国際自然保護連合)の担当者も来ている会議で報告できたのは、意義深いことであったと思う。
会議には、イタチ研究の大御所であるCarolyn King先生、テン研究の大御所のRoger Powell先生がいらしていて、それらの先生から各研究分野を総括するプレナリ―講演が行われた。普段これらの先生が書かれた本を読んで勉強している身としては、先生と直接お話しする機会にも恵まれ大変感動した。またPowell先生は、若いイタチ科研究者向けに研究の心構えやイタチ科動物と接する研究の特徴についての講演もされ、出席していた大河原さん(琉球大博士課程)は感銘を受けたそうだ。このお二人の先生の参加を楽しみに来た参加者は多かったことと思うが、大型会議でないが故のアットホームな雰囲気で接することもできたのが、このような会議の良いところだと思う。
King先生。ワイタムでアナグマプロジェクトが始まる少し前に、イタチの研究を行っておられ、その後ニュージーランドへ移って島の移入イタチの研究をされた。オックスフォード卒らしく、豊富な研究データを駆使した、すばらしいご講演であった。このスライドだけでも先生のイタチ研究への熱意が伝わってくる。
Powell先生。テン研究をけん引する大御所であり、二つのプレナリ―を行われたが、ご講演ではゆっくりとした優しい口調で、非常にわかりやすく説明された。
先生のお人柄に惹かれて、テン研究を始める若い人は多くいるのではないだろうか。
一般公演では、アナグマにおいて安定同位体比を用いた個体レベルの食性の特徴の研究が行われていることや、同所的に生息するイタチ類複数種(マツテンとイシテン)の種間関係、それらを行う上で、DNAを用いた種判定が調査技術としてあたり前の時代になっていることを実感した。また、保全分野ではイタチ科動物の人為的な移入(アメリカミンク、ニュージーランドのイタチなど)が他種(ヨーロッパミンク)や在来生態系に大きな影響を及ぼしており、一方で養殖による動物自体への影響や福祉面での問題点についての研究も多いことを改めて確認した。ヨーロッパミンクの話は保全の教科書で目にしたことはあったが、数が激減している現状に大変驚いた。日本では、移入されたイタチ類の研究は数少ないが、研究トピックとして体系的に取り組んでみたいと思った。
WildCRUでは、この会議のために様々な準備が行われたことを耳にしたが、イタチ科動物研究の保全関連の動向について文献レビューを行った友人の話によると、他の食肉目の分類群、たとえばイヌ科やネコ科と比較して、イタチ科動物の大きな特徴として、人間による動物の大量捕殺、移動、養殖、などが安易に、そして法の枠組みを無視して(発見もされずに)私的にも多く行われてきた結果、現在の絶滅危惧、移入、また駆除の是非に関する議論などの問題が多く生じていることが特徴とされるそうだ。イタチ科動物は進化上の特徴として体サイズが小さくなる方向に向かい、生態学上のメリットを得たが、逆にその結果、人間にとって気軽に扱える存在にもなった。捕殺、移動、養殖などが大量の規模で行われたのも食肉目動物にしては気軽に扱えることは背景だろう。
このような貴重な機会であったが、日本からの参加者が少なかったのは残念だった。理由としては開催時期が年度末であったために、私の周りのイタチ科研究者らは参加を断念せざるを得なかったこともあるが、私の他にDr Nobuyuki Yamaguchi氏(WildCRU出身でカタール大勤務。ネコ科専門であるが、アナグマの着床遅延についての口頭発表を行った)、琉球大の大河原陽子氏(琉球大伊澤研究室。ツシマテンの採食生態のポスター発表)が出席し、総勢3名と少なかった(いちおう日本人懇親パブナイトもしました、笑)が、大河原さんは優秀ポスター賞を獲得し、よく健闘した。今後、日本でもイタチ科研究に取り組む若手がもっと増えることを期待したい。
日本(アジア)からの唯一の若手参加の大河原さん(学部は農工大野生動物研出身。日本イタチのフンDNAの研究を私と一緒に行っていた)。彼女は、優秀ポスター賞を獲得しました!アジアはイタチ科動物の種数が多く、進化上重要な位置づけにあるため、日本とアジアの研究者にも、さらにがんばってほしい。
日本でも、盛り上げていきましょう
会議終了後にカレッジLady Margaret Hallでおこなわれたガラディナー。哺乳類関係の会議として珍しく(!)、ドレスコード指定があり、皆、準正装して参加だった。国際会議では、こういう機会も楽しい。
この会議のアブストラクト集のPDFをご希望の方に送ります(研究、調査関連の人のみ)。
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